旧中村家住宅(奈良井宿)概要: 旧中村家住宅(中村邸)は長野県塩尻市奈良井に位置する古民家で、案内板によると「 中村屋 塗櫛の創始者中村恵吉氏の分家にあたる櫛問屋 天保年代(1830〜43)の建物 」とあります。中村利兵衛家(長野県塩尻市奈良井)は塗櫛(木曽地方の伝統的工芸品、つげ櫛の上に上質の漆を塗って意匠的に華やかにした櫛。)の創始者中村恵吉家の分家筋に当り、当家も代々奈良井宿で塗櫛の製造販売を手掛けた櫛問屋を生業としてきました。
現在の旧中村家住宅は天保8年(1837)の奈良井宿大火で類焼後の天保10年(1839)頃に再建されたもので、木造2階建て、切妻、平入、鉄板葺、桁行3間2尺、梁間9間半、延面積160u、外壁は下見板張り縦押縁押え(袖壁は防火、延焼防止の為に土壁)、2階は格子戸で1階はしとみ戸、入口は大戸に潜り戸が付いています。正面2階外壁が1階より張り出す出梁造で、正面1階庇は特徴的で構造的に不安定なのか垂木を意匠的に加工し上部から釣り込む工法を採用し異彩を放ち、2階庇は大きく軒を出し雪深い地域の特徴が表れ、袖壁を張り出し防火面での工夫も見られます。
旧中村家住宅の内部は1階正面から「みせの間」、「かって(囲炉裏付)」、「中之間」、「ざしき(床の間付)」、向って左端は「通り庭(土間)」で敷地奥まで続き、背後の中庭から通風と採光が採れるように計画されています。2階は向って右側が「茶室」、左側が「ざしき」、吹き抜けを挟んで「板の間」が配されています。敷地背後に設けられた土蔵は切妻、鉄板葺き、平入、外壁は白漆喰仕上げ、腰壁は海鼠壁、延床面積50u。
旧中村家住宅は奈良井宿にある一般的な町屋建築である為、住民達からはその価値が判らずにいましたが、昭和44年(1969)に日本民家園(神奈川県川崎市)への移築計画が持ち上がると、その価値が再認識されるようになり、それが機運となり奈良井宿の町並みや町屋建築の価値が再認識され、保存運動に繋がったとされます。旧中村家住宅は奈良井宿の典型的な町屋建築の遺構として貴重な存在で、主屋と土蔵が昭和60年(1985)に塩尻市指定有形文化財に指定されています。現在は資料館として一般公開され内部を見学する事が出来ます。
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